2011年3月アーカイブ

石原さんと付き合ってると感じることはたくさんあった。

もちろん多くは幸せという感情なのだが、あの時の僕には石原さんを包み込めるほどの大きな心がなかった。

石原さんは僕にとって天使でもあり女神でもあり聖母のようでもあった。

彼女なしでは生きていけそうにない自分の無力さを感じては、自分を強くしたいという思いが生まれていた。そのつまらない

感情が生まれては何度か彼女に別れを告げた。

でも結局は3日も経てばまた彼女が恋しくなり彼女の元へ戻っていく。

また、その度に石原さんは天使のような笑顔で女神のような体で聖母のような心で僕を包み、許してくれた。

しかし、事件が起きた。高校を卒業して一年が経とうとしていた冬、僕はまた懲りずに別れを告げていた。そしてまた、

3日が経ち、さみしさを感じ始めた夜に石原さんからの電話が鳴った。今までこの3日間で彼女の方からの連絡など

なかったのに。

「ある男性から告白された。その人と付き合ってみようかと思うけどいい?」

・・・・

「おぅっ、いいよ」

 

今から15年前、初めて煙草に火をつけた苦い思い出。

 

天使の去る音と山が崩れる音を同時に知ってから1年後の二十歳の秋、一通の招待状が届いた。

そう「ライアーゲーム」の招待状ではなく「同窓会」の招待状。

僕は2浪目に突入しているにも関わらず、参加を決意した。

理由は1つしかなかった。

石原さんとの再会。

天使との再会だった。

ライアーゲームにかけていた。

成長した僕をもう一度見てもらおう。そうすれば・・・・

会は名前も忘れた男のあいさつではじまり各々が当時の友達たちと輪を作る。そしてその輪の中に当時鬼のように

恐れられていた先生たちが仏のような顔で入ってくる。そして室内が煙草とアルコールの臭いでいっぱいになるころ

しだいに輪が崩れていき、当時は話もしなかった奴と話をし始める。そんなタイミングだろうか石原さんと僕の距離は

まるでフォークダンスで意識しあう男女のようにその距離を縮めていった。そして天使は見えないはずの羽を羽ばたかせ

小走りで僕に近づき、ちょっと赤くなった顔で笑いかけてきた。

そしてついにライアーゲームがスタートした。

僕はこの日から煙草を

「セーラム」→「マルボロ」

に変えた。

飲んでいた

「ウーロン茶」→「ビール」

に持ち替えた。

石原「元気?」

僕「まったく元気じゃない」→「元気よ」

石原「よかった」

石原「大学生?」

僕「だめな2浪生」→「行きたいとこ受からなかったから2浪目」

石原「頑張ってるね」「今年はいけそう」

僕「全てD判定」→「このままいけば大丈夫」

石原「よかった」

僕「最近どう?」

石原「楽しいよ」

なんか嫌だった。

石原「煙草始めたの?」

僕「おぅ」

きつい煙草に火をつける。そして、煙の行く先が彼女に行かないよう配慮する。

石原「気を使わんでいいよ。慣れてるから平気」

なんか嫌。

石原「飲みに行ったりするの」

僕「まったくない」→「気晴らしに時々」

石原「バーとか?」

僕「ありえない」→「だいたいね」

石原「何飲むの?」

僕「ウーロン茶とコーヒー」→「マティーニかギネス」

僕「おまえは」

まるで彼氏のように。

すると、天使はやさしく微笑みながら、

石原「sex on the beachが好き」

全てが終わった。

 

 

                                    おしまい

 

女神にあってから2年が経とうとしていた。

僕らは高校2年生の3学期を迎えていた。

僕たちの学校は中学からのエスカレーター式で中学の奴らは先生に「勉強しないと高校にあげないぞ」と脅されながらも

やっぱり、みんなそのまま高校にいた。僕も石原さんも坂口君もそしてもちろん鮎川りみこもだ。

僕は高校2年の秋に体育の授業中に左足の靭帯を切ってしまってそれからはまったくサッカー部へは顔を出していない。

それでも、僕は石原さんの部活が終わるまで教室で待ち、一緒に帰る。そんな生活を繰り返していた。

付き合ってからの三年間、危機もなければ喧嘩もない。

だれもが理想とするベストカップルへと成長していった。

あの日もその予定だった。

ただ、この日は土曜日。さすがに午後の授業がない分、待ち時間、5時間はきつい。

会いたい気持ちが強い分、時間がとてつもなく遅く感じる。

そんな時はよく電車で15分程度のちょっとした街へ出かけて時間を潰すことが多かった。

この日も僕はそのつもりで最寄りの駅へ向かっていった。

でも、出会ってしまった。

出会ってはいけない人に。

鮎川りみこ、その人に。

鮎川りみこにふられてからの3年間、学校で合うものも会話はしてなかった。

あの夏の思い出を忘れたわけではないが、思い出さずにいた。

鮎川「久しぶり」

僕「久しぶり」

ナメック星ぐらい空気が重い。

鮎川「・・・」

僕「・・・」

鮎川「カラオケでも行く?」

僕「別にいいけど」

僕は石原さんに会うための時間つぶしだと自分に強く言い聞かせていた。

そして、いつもあのカラオケボックスへ向かっていった。

小さな部屋に入ったとたんだった、鮎川りみこの表情が変わった。変わったというより戻った。

3年前のあの夏に見せた、可愛すぎる表情に。

「やばい」

目をそらしたいがそらせない。

制服の上からでもはっきりとわかるぐらい成長した大きな胸。

石原さんよりも10㎝も20㎝も短いスカート。

どこにも視線を向けれない。

「歌うしかない」

急いで、歌本を開き、曲を選んだ。

大江千里『カッコ悪いふられ方』

空気を修復するかのように嫌味な歌を歌ってやった。

これでひとまず、モニターに集中できる。

・・・・はずだった。

なぜ!なぜ!

モニターと僕の距離は1メートル。

その間にあいつは割り込んできた。

モニターを見してくれない。

『カッコ悪いふられ方』を歌わせてくれない。

鮎川りみこの顔しか見れない。

くやしいけど「かわいい」

地獄の3分54秒を乗り切った。

当然、同じことをしてやった。

鮎川とモニターの間に割り込んでやった。

「ざまあみろ」

・・・・のはずだった。

彼女は暗記していた。

彼女は僕をまるでモニターのように見つめたまま歌い続けている。

「かわいい」

曲がAメロからBメロへ流れていくなか僕は鮎川にAをした。

そしてBに流れそうになったその時に彼女からのサビの言葉が流れた。

「石原さんと別れてくれる?」

音楽で充満しているはずの部屋が静まり返ったように思えた。

言葉が出ない僕を見て彼女は目にいっぱいの涙を浮かべて、一言「わかった」とつぶやき、まだ全部歌いきっていない

歌を残し部屋を出て行った。

カッコ悪いふられ方をしたのは僕の方なのになぜ。

17歳の僕には難しすぎた。

部屋にはレベッカの『フレンズ』が鳴り響いていた。

・・・

それから数か月後、ベストカップルは破局していた。

愛と恋を失った17年前の出来事。

 

 

次回は最終回「二十歳の再開」

 

 

 

 

 

 

 

中学生活も性勝つできづに高校生活に向けての春休みを迎えていた。

この日もいつもと変わらず、朝7:30に朝食をとっていた。

祖父、祖母合わせ家族7人で朝食をとるのがわが家の決まりごとの一つでした。

しかし、この日、僕は一足早く大人に入学を迎えることになっていた。

状況は整っていた。祖父、祖母、父、母は仕事へ。兄、妹はお受験のため塾へ。

そうなんです!家が空っぽになるんです!

千載一遇カードがあるのは桃鉄だけではなかったのです。

僕はこの興奮をだれにも悟られないように黙々と朝食をとった。

あと2時間もすればこの家は空っぽになる。それまで平常心を演じきるだけのこと。

「落ち着け俺!」

そして、一人また一人と家を後にして自分たちの戦いの場へ出ていった。そして最後の一人が家を出て行った。

「時は来た!」

頭の中を「ミッションインポシブル」のテーマが流れ始めた。

不可能が可能になる日がやってくるのだ。

僕は前々から準備をしてあった来客用の布団をすぐさま取り出し、計画の部屋へ搬入する。それから寒さが残るこの時期の

ためにストーブを1台、もちろん灯油は満タン。ムードづくりのためにCDデッキ。そして最終兵器の「飯島愛」とテレビデオ。

完璧だった。2時間前まで誰も使っていないただの物置部屋が即席ラブホテルに見事に変貌をとげた。

トム・クルーズも匠もここまではできないはず。

あとは彼女を石原さんを連れてくるだけだ。

ここからが、第2のミッション。

家族の仕事は家からは目と鼻の先にある。また、家族だけではない。家の前のお肉屋さんのおばちゃんだって、その隣の

魚屋さんのおじちゃんだって僕のことは知りつくしている。その何十人の視線の隙をかいくぐり僕は彼女を家へ連れて来なく

てはならない。チャンスは一度きり。

無事に待ち合わせ場所の銀行の駐車場に到着した。

そうすると車の陰から彼女が姿をみせた。

まるで、湖から金の斧もってきた女神のように、寒い日に生足にミニスカート。

「僕の斧はキンキンです」

そうして、僕と石原さんは数々の視線をくぐり抜け、ようやく匠のつくったあの部屋へ到着した。

そこはストーブのおかげで、真夏のような暑さ。

二人はすぐにきていた上着を脱ぎ、リラックスモード突入である。

どれぐらいの時間世間話をしたのかは、まったく覚えていない。

気がつくと、僕は一生懸命だった。

何が何だかわからい状況に終始戸惑いつつも、ようやく、その時がやってきた。

あまりにもの暑さで僕の顔からは滝のような汗が流れ出ていた。その汗が僕の頬から顎へ、その汗が彼女の胸元へ

落ちていく。

そして、彼女は痛みの中、覚悟を決めてくれた。

僕もあまりの緊張と自分のテクニックのふがいなさで金の斧が銀の斧へそして最後はやっぱり石の斧へと変わっていく。

それでも僕らはおとぎ話のように真実の愛へとつながった。

今から18年前の甘くて痛い思い出。

 

 

 

 

2017年6月

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30