ハードへの公共事業をソフトに振り分け、地域経済が活性化  ~LCCの就航により追い風が吹く奄美大島・瀬戸内町~

 今年度、NPO法人価値創造プラットフォーム代表の石崎さん(商店街よろず相談アドバイザー)からのご紹介で、奄美大島の南端、瀬戸内町における観光客の回遊・消費の実態調査業務を担当させていただいた。発注元は瀬戸内町古仁屋の36店舗の商店主らで構成する任意団体「せとうちポイント会」(政岡博重会長)で、全国商店街振興組合連合会の「地域商店街活性化事業」を活用した調査・研修事業の一環であった。

 瀬戸内町は、奄美空港から車で約1時間半南下したところにある。昭和31年、4つの自治体が合併し、瀬戸内町が発足した当初の人口は26,638人であったが、平成22年の国勢調査では9,874人と、54年間で人口はほぼ3分の1となっている。面積は約240㎢で、奄美大島最南端の地域と、加計呂麻島、与路島、請島などの島を町域とする。その人口の約半数が「古仁屋」という大字に住んでおり、瀬戸内町の商業、行政、交通、地域活動などの拠点となっている。


●土木事業への支援からソフト面の支援へ
 奄美群島に対しては、国の「奄美群島振興開発特別措置法」に基づく予算措置があり、その振興のために1953年の日本復帰以降、毎年数百億円の国費が投入され、幾多の土木・建設系の公共事業が実施されてきた。しかし、平成26年1月に奄美群島振興開発特別措置法が改正され、平成26年度の補助金251億円のうち230億円は従来通りのハード事業への補助だが、残り21億円がソフト面を中心とした施策へ投入されることとなった。この21億円のうち2.4億円が冬季の閑散期対策として航空路線の運賃軽減措置にあてられ、それを受けて全日空系のLCC「バニラ・エア」が成田空港~奄美空港間の直行便を新規就航することを決定した。

 これまで関東から奄美大島への空路はJALしか選択肢が無く、その運賃は片道の普通運賃51,800円、28日前購入の割引運賃が片道32,300円と高価であったが、バニラ・エアの夏期の最安運賃は8,000円、冬期最安運賃は5,500円という安さ。

 このバニラ・エアの就航により、奄美大島はにわかに活気づいている。町の人達は、「観光客が増えた」と実感しており、民宿では客が増加して忙しいと言っている。では、果たしてどれくらい観光客が増加し、どのような観光・消費行動を取っているのか調べて欲しいというのが、せとうちポイント会からのオーダーであった。そのため、奄美空港や、瀬戸内町古仁屋の渡船場において、来島者へのアンケート調査を実施した。また、同時に行政や観光関係事業者への聞き取りを行うとともに、観光交流が移住にどのようにつながっているのかを知るために、Iターン者への聞き取りも行った。今回、せとうちポイント会の許可を得て、この調査結果の一部をご紹介したい。


●観光客は新規就航後の半年で4万6千人増加
 奄美空港管理事務所の統計資料によると、平成26年の1年間の奄美空港定期便利用者は平成25年と比較して約4万6千人増加した。増加したのは7月1日のバニラ・エア就航後であり、実質的には7月から12月までの6ヶ月間でこれだけ増えている。特に羽田・成田から奄美空港への乗降客数は、月によってはほぼ倍増した。

関東~奄美空港便の月別乗降客数(奄美空港管理事務所
関東~奄美空港便の月別乗降客数.png












 また、興味深いことにJALの乗降客数の減少幅は1~2割程度であり、バニラ・エアがJALのシェアを奪ったというよりも、バニラ・エアが新規の需要を開拓している。今回実施したアンケート調査結果でも、瀬戸内町に「初めて」訪れた観光客は、回答者全体では59%であったのに対し、LCC「バニラ・エア」を利用した観光客は94%が「初めて」訪問したと回答しており、バニラ・エアが新規顧客を呼び込んでいることを裏付けている。

エアライン別来島回数
交通手段別来島回数.png














●バニラ・エアを利用した観光客はアクティブな20~30代の女性
 また、アンケート結果を大まかにまとめると、バニラ・エアの利用者は、関東在住、20~30代の女性が多く、家族や友人・知人の口コミにより奄美に行こうと思いたち、SNSやスマートフォンを活用して情報を検索しながら旅をしている。さらに、バニラ・エア利用者は各種アクティビティ・体験費などの支出が全体平均の約2倍であり、若く、アクティブな女性が多い。瀬戸内町では、平成26年2月より「女子旅」の商品開発や情報発信事業を進めておられ、今後、こうした客層をターゲットとした様々な商品、サービスが生まれてくることが期待される。


●2.4億円の運賃補助が、多大な波及効果をもたらした
 今回把握した目的別消費額・宿泊率等をもとに、平成26年の一年間の定期便乗降客増加分(約4万6,000人)がもたらした奄美大島島内への経済波及効果を算出すると、約40億円と推計される(アンケート調査結果、総務省「産業連関表」「家計調査」をもとに㈱よかネット推計)。また、奄美大島出身者の帰省や島内から関東への旅行者も増加している。
 このように、2.4億円の運賃補助が10倍以上の波及効果をもたらし、地域の経済だけでなく、地域内外の人と人とのつながり、賑わいなど、多大な効果をもたらした。
 観光客の増加にあわせ、宿泊施設の開業も相次いでいる。福岡のホテル運営会社が3年前から閉館していた古仁屋のホテルを買い取り、2014年10月にリニューアルオープンした。また、加計呂麻島でもペンション、ゲストハウスがオープンし、他にも新規開業に向けた動きが出てきている。さらには、新たに関西からLCCが就航するかもしれないという噂もあり、観光については明るい話題が多い。


●海や人の魅力に感動し、リピーターへ
 奄美大島、加計呂麻島の魅力を聞いた設問では、「とにかく海が綺麗、海の青さ」など「海」に関する回答が45件で最も多かったが、次いで「人が温かい、人がのんびり、すれ違う人がニコってしてくれる」など、「人の魅力」についての意見が37件であった。その他、「手付かずの緑、マングローブ」など「自然」が22件、「島料理、鶏飯」などの「食べ物」が19件と続いた。

 こうした海、人、自然の魅力に多くの人々が惹きつけられ、感動し、リピーターになっている。私も、今回の業務を通じて瀬戸内町のことが大好きになった。奄美大島本島も良い景観なのだが、古仁屋から20分かけて渡ることができる加計呂麻島のとびきり澄んだエメラルドグリーンの海や、入り組んだリアス式海岸、その背後のこんもりとした山々や南国情緒たっぷりの町並みが作り出す景観は特に素晴らしかった。また、黒糖焼酎や新鮮な海の幸、沖縄と似た島料理など、ご当地独特の食も、これまた感動モノ。11月上旬、調査のために加計呂麻島を訪問し、宿泊したが、夜の星の瞬きと流れ星にこれまた感動。2月上旬の訪問では、この時期限定のタンカンを堪能することができた。瀬戸内町、加計呂麻島は本当に地域資源のポテンシャルが高く、しかも季節ごとに異なっている。そして観光地化されていない分、地域固有の資源や生活風景が残っていると感じる。

奄美のビーチはどこも美しい!
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黒糖焼酎、島料理、島唄。奄美大島の夜を体感。
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●地理的制約に縛られず仕事や生活をする方々が移住
 こうした地域資源に引き寄せられた観光客がリピーターとなり、さらには移住に繋がっている。アンケートでは、「奄美大島・加計呂麻島への移住に興味がある」という割合は36%であり、実際、町が把握しているだけで平成20年度から25年度までの6年間で101名が移住している。

 移住した方々の職業は、よそ者ならではの目線で島の魅力を発掘し、飲食店や民宿、ダイビングショップや観光ガイドなどを営まれている方、農業・漁業など様々であるが、中でも印象に残ったのが、加計呂麻島にここ2~3年のうちに移住してきた3名の方々だ。

 一人目は、加計呂麻島のポータルサイトかけろまウェルカムを運営しておられる小野寺さん。
 小野寺さんは、関東のベンチャー企業でプログラマーとして働きながら「いずれ島暮らしをしたい」と漠然と考えていたが、一度訪問したことがある加計呂麻島の良好な物件が空いたとの情報で移住を即断し、退職。現在は島の店舗や団体のHPを作成したり、クラウドソーシングサイト(主にフリーランスの方々を対象とした公募案件・委託業務を掲載するサイト)で仕事を受注している。

 2人目は青木薫さん。青木さんは、美大を卒業後、デザイナーや教員をされていたが、3年前に諸事情で加計呂麻島に移住された画家。現在は、イペルイペ油画制作所の代表を務め、ネットで送ってもらった写真をもとに肖像画を作成し、データ納品するという事業を展開されている。

 3人目は新進の小説家・ブロガーの三谷晶子さん。「未来住まい方会議」というウェブメディアの、女子的リアル離島暮らしというコラムにて、若い女性の視点から見た離島暮らしについて、定期的に更新しておられ、毎回楽しみに拝読している。

 この3名は、皆、東京から移住してきた30代の方々で、ネットでやりとりできる知的生産物・サービスを販売しているという共通点がある。首都圏から徳島県神山町の中山間地域にベンチャー企業を呼びこんでいるグリーンバレー大南さんの取り組みや、高知に移住した著名ブロガーのイケダハヤト氏と同様の動きが、ここ瀬戸内町でも起きており、「これが時代の流れなのだなぁ」と、加計呂麻島で改めて感じた。

 移住者の多くは、amazonや「タイヨー」という鹿児島のスーパーのネット通販で買い物をしている。また、周囲の方々が野菜や海産物を分けてくれ、家賃も安いので、生活費はあまりかからないそうだ。教育や医療にも特に不安・不便を感じることは無いとのこと。こうした、地理的制約に縛られない仕事や暮らし方をしている尖った人たちが、加計呂麻島の海や自然、そこでのライフスタイルに憧れ、移住してきている。


●観光客・移住者受け入れの改善余地はまだまだある
 このように、民間の需要拡大が牽引する形で観光振興が図られ、移住者が増加しているが、自治体、観光協会など地元の受け皿に関しては、不慮の事態の影響もあり、体制整備や施策充実の余地がある。

 そもそも町内の宿泊施設の収容人員が約570人(平成25年度末)と宿泊客受入のキャパシティが限定されており、ハイクラスな宿泊施設や、地域の生活文化を感じることができる体験型の民泊がなく、宿泊施設の選択肢が少ない。さらには、「地域の商店は日曜が休みのところが多い」「家族経営の個店が多く、電話しても不在」「情報がネットにあまり掲載されていない」といった声は調査の中でもよく聞かれた。空き家に関しても、空き家バンクに登録されているのはほんの一部で、全く、あるいは年に1~2回しか利用されていないが顕在化していない空き家がまだまだ存在するという話を聞く。
このように、まだまだおもてなし向上、受け入れ拡大の余地は大きく、それが逆に今後の可能性を感じる部分でもある。


●追い風をどう活かすか、今後4年間が勝負
 国が地方創生を掲げ、観光立国を成長戦略の柱の一つとし、円安で海外から多くの観光客が訪れている今、観光振興に取り組む自治体にとって追い風が吹いている。だが、こうした追い風はいつまで続くか分からない。改正奄美群島振興開発特別措置法の予算措置の期限は平成31年3月末までであり、その後の国からの支援に関しては不透明である。スカイマークが経営破綻し、撤退を決めた石垣島、宮古島の状況を考えると、外部企業が地域経済の命運を握る構造は不安定とも言える。加えて、瀬戸内町の人口減少・少子高齢化は今後もハイペースで進展すると予測され、町の内需はますます縮小する。この追い風の状況下に、如何に地域として新たな投資をして魅力を創出するか、あるいは弱点を補強するか、31年3月末までの4年間は、町民や町内企業・団体、行政の総力をあげた取り組みが問われる大事な時期と思われる。

瀬戸内町の人口・高齢化率の推移(国勢調査・国立社会保障・人口問題研究所)

瀬戸内町の人口・高齢化率の推移.png


















 何度も繰り返すが、瀬戸内町、加計呂麻島の地域資源は独特で、素晴らしい。ぜひ、地域の関係者が、互いの損得や事業領域の縄張りを飛び越え、開発と保護のバランスを取りながら、この素晴らしい資源を後世に引き継いでいただきたいと、いちファンとして切に願う。

 本調査・研修事業では講演会が3回開催されており、最終回の佐賀県の森本登志男CIOの講演会の前に、調査結果の結果報告をさせていただいた。その後の懇親会でも地元の方々と大変盛り上がり、SNS等でつながり、友人になったと勝手に思っている。

 せとうちポイント会の事務局を務める藤井さん(お茶の不二園・店主)を中心とした古仁屋・加計呂麻の方々は、これまでずっと地元で生活している方や、一度東京など外に出られて戻られた方、Iターンで他の地域から移住してきた方など、様々な年齢、性別、職業、感性の方々が集っており、素敵なチームが出来ている。瀬戸内町・奄美大島の今後の展開に注目しているし、仕事で関わらせていただき、応援したい地域がまたひとつ増えたことをありがたく思う。

 なお、本調査結果は、地元奄美の複数メディアでも取り上げられた。奄美の方々が、今後事業や地域活動に取り組まれる上での参考にしていただけると、とても嬉しい。

4月15日 南海日日新聞一面(せとうちポイント会HPより)
南海日日新聞.jpg










































奄美新聞の記事「来島・移住へ課題把握」

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