九州大学ブランド牛「QBeef」が 目指す新たな畜産モデル

 今お手伝いしている仕事の一環で、大分県竹田市、久住山麓にある九州大学高原農業実習場を訪問することになった。牧場に伺ったのは2月17日。全国的に大雪が降っていた時期であった。久住もやはり雪が深く、立ち往生している車を何台も見かけながら山路を登った。この高原農業実習場のトップを務めるのが後藤貴文准教授である。後藤先生が考える畜産モデルは、実に面白いコンセプトなのでご紹介したい。


●様々な問題を抱える畜産の現状
 現在の畜産は、1頭の和牛を生産するために4~5トンの輸入穀物を与えている。そのため生産者は輸入飼料相場の高騰に頭を悩ませ、困難な経営状況にある。また、外国産のため日本の土壌には循環できない過剰糞尿の処理という問題がある。さらにはBSE等の食の安全問題、霜降り志向の流通、繁殖・肥育・と畜・卸・小売など分断された高コストの流通構造、集約的飼養による動物福祉に反する飼養環境等、多くの問題を抱えている。

 牛は本来、草などの植物資源をタンパク質に変える機能を持つ動物であり、日本は草が育ちやすい湿潤な気候である。また、人口減少・農家の高齢化に伴う耕作放棄地の増加など、牛の放牧が可能な環境は中山間地を中心に拡大している。

 そこで後藤先生は、日本の草で美味しい牛を育てるための研究を行っている。その研究は大きく3つに分けることができる。


●一つ目「太りやすい体質づくり」
 通常、草のみで肥育すると、まったくの赤身となり現在の日本の消費者が好む肉質とはならない。しかし、それを可能にするための技術が「代謝生理的インプリンティング」というものだ。呼び名は難しいが、一言で言えば「刷り込み」である。

 胎児期や初期成長期に、適切な栄養環境等を促せば、その後の代謝生理的機能が制御される効果について第二次大戦中から行われてきた。後藤先生はその研究成果を牛に応用し、牛の初期成長期に特殊なミルクや飼料を一定期間与えることで、太りやすい体質とすることに成功した。

インプリンティングされている最中の子牛。子牛は畜舎で育てる
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哺乳ロボを使い、ミルクを通常の3倍量与える
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●二つ目「高度放牧管理」
 前述の飼育方法で10ヶ月齢まで育てた太りやすい牛を、耕作放棄地や牧草地に放ち、体表や体内に埋め込んだセンサー等で牛の位置や状態(発情期、出産の有無など)を把握する。また、情報通信関連企業との共同研究により、スマートフォンやタブレットのアプリケーション上で、牛を見て、呼び寄せ、餌をやるシステムを構築した。畜産家は毎日牛の世話をしなければならないため、休みがないと言われる。しかし、この放牧管理技術が確立・普及すれば、旅行に行った先からも牛の面倒を見ることが出来るというわけだ。

タブレットを使って動画で牛の様子を確認、呼び寄せ、餌を与えることができる
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●三つ目「消費者への直販」
 ふつう、国内で肉牛を飼っている農家は繁殖農家か肥育農家のどちらかだ。繁殖農家は、効率的に牛を妊娠させ、良い子牛を育てる。そして肥育農家は子牛を繁殖農家から買い、畜舎で集約的に牛を育て、卸業者や小売業者に販売する。その間、各段階で中間マージンが発生するため、たとえば繁殖農家の売上は小売価格と比較して4から5分の1程度となる。生産者が販売まで手がける、所謂六次産業化ができれば、農家の手取りは増え、畜産経営は楽になる。

 そこで後藤先生は、マーケティングコンサルタント会社との共同研究により、赤身肉を好むマーケットの開拓や、ステーキや加工品の試作・販売を行っている。食味の調査も行っており、QBeefは草のみで育てた牛よりも脂肪分が多く、穀物で肥育した牛よりもコレステロール値が低く、必須アミノ酸、うまみ成分が多いという結果が出たそうだ。

QBeefの試食会で出されたステーキ
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●QBeefは脂身がサラッとしていてしつこくない
 このように、子牛の初期成長期にインプリンティングを行い、太りやすい子牛を国内の草地で、ICTを活用して放牧管理する、そして霜降りよりも健康的な牛肉を生産者が直接消費者に販売する。こうした新たな牛肉のブランドや畜産のビジネスモデルが確立できれば、冒頭に挙げたような各種問題が解決に向かい、国土が有効活用され、農家の手取りが増え、国内の食糧自給率が改善される。何とも夢のある話だと思う。ただし、現在は頭数が少なく流通量が限られており、ステーキ肉が100g1,000円と赤身肉にしては高価といった課題がある。

 別の機会にQBeefの肉を食べてみたが、肉質は完全赤身のギシギシとした固い肉ではなく、ほどよく柔らかかった。そして脂身がサラッとしていてしつこくない。私は三度目のフルマラソンへの挑戦を4月に控え、体重管理の為できるだけ炭水化物を減らし、タンパク質を多めに取る食生活をしている。私はまさにQBeefがターゲットとする客層なのかも。量産化されるのはもう少し先のことになりそうだが、畜産のあり方を変え、マーケットを作る可能性があるこのQBeef。通信販売でも入手できるので、気になる方は買ってみられてはいかがでしょうか。

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