September 2012Archive

●鯖江市の概略紹介
 鯖江市は、福井県の北部に位置し、人口は約6万7千人、国内唯一のメガネ関連産業の集積地である。元々は1905年に地元の庄屋が大阪から眼鏡職人を招いて、降雪が多い冬季でも屋内でできる作業として、近在の子弟に真鍮枠の眼鏡の技術を取得させたのが始まりである。今では、鯖江市のメガネフレームの国内シェアは96%、世界シェアでも約20%を占め、市内従業者の6人に1人がメガネ関連産業に従事している。

 しかし、メガネ産業を取り巻く環境は厳しい。福井新聞によると、日本のメガネフレームの輸入額は1992年から2010年までの18年間で約54億円から約153億円と3倍になり、輸入額に占める中国の割合は5%から75%に増加、一方で日本からの輸出額は約406億円から約124億円へ、3分の1に減少している。この20年間で鯖江市内のメガネ関連の事業所数は4割、従業者数は3割減少している。さらに、近年は韓国が安価なプラスチック製メガネを中心にシェアを伸ばしており、日本への対日輸出額は2012年1~7月度の前年同期比8割増となっている(韓国、聯合ニュース)。ニュースなどでソニーやシャープ、NEC等、日本の製造業大手の苦境を耳にするが、地域の中小企業からなる産業集積地も、グローバルな競争にさらされている。

 そうした中、鯖江市の地域・産業活性化、地域ブランドづくりへの取り組みがユニークであると、様々な方からお話を聞く機会が増えてきた。また、弊社は今年度、㈱博報堂との協働で、玉名市の地域ブランド戦略プラン策定のお手伝いをさせていただく機会を得たため、8月3~5日に鯖江を訪問し、まちづくりのキーマンや市職員の方々からお話をお聞きするとともに、鯖江市のメガネ工場・メガネの小売店舗等を視察した。


●メガネ関連産業の活路は「鯖江ブランド」づくり
 鯖江市は、平成22年度から平成26年度の5年間を計画期間とする「第5次鯖江市総合計画」の中で、「鯖江ブランドづくり」と「人の増えるまちづくり」という2つの重点施策を挙げ、すべての事業がこの重点施策に紐付く施策体系としている。

 そして、平成22年より「大学連携地場産業鯖江ブランド化事業」を実施し、ブランディングを専門とする学識経験者等を招いた勉強会(年5回開催)や講演会を通して、鯖江市のブランド力向上を進めており、これまで蓄積された固有技術や伝統的な技法を生かした新製品・新技術の開発、異分野・異業種への進出を支援している。

 今回訪問した㈱キッソオでは、吉川専務からお話をお聞きした。㈱キッソオは元々、メガネフレーム用のプラスチック材、メタル材の加工を手がけていたが、2010年からは、アクセサリー部門を立ち上げ、キッソオの店頭はもちろん、近隣のメガネ店、美術館等で販売を開始している。この新規事業への着手、販売チャネルの選択にあたっては、前述のブランド化事業の勉強会で同業者やアドバイザーの方々からの意見を参考にしたとおっしゃっていた。

 また、小売店である「田中メガネ」の田中さんからお聞きした話によると、鯖江市のメガネフレームメーカーは、海外企業のブランドをOEM生産してきたため、産地である鯖江の名前が表に出ることは多くなかったそうだ。しかし、今後は世界のメガネ産地として福井・鯖江のアピールを実施するとともに、海外で真似のできないメガネフレームとして伝統工芸とコラボした商品、また高度な加工技術が必要なチタンやマグネシウム素材を使用した商品開発を行っている。加えて、TEAM291(ふくい)というブランドを立ち上げ、インターネットによる商品管理・小売により、品質の良い商品を適正価格で消費者に届ける仕組みづくりに挑戦している。
 こうした「産地のブランド化」を、総合計画における最重要課題として、市・企業が一丸となって取り組んでいる。

(株)キッソオのフレーム樹脂加工技術を活かして作られたアクセサリー
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●鯖江市のまちづくりの「ブランド化」
①鯖江市地域活性化プランコンテスト
 そもそも私が鯖江市に関心を持ったきっかけは、「鯖江市地域活性化プランコンテスト」であった。このコンテストは、まちづくり・地域活性化のプランを大学生が考案し、市長に提案するというもの。鯖江市出身で当時東京の人材育成コンサルティング会社に勤めていた、竹部美樹さん(現在は鯖江市のNPO法人エル・コミュニティ代表)らが、大学生の人材教育の一環として企画し、今年度が5回目。毎年、関東、関西から学生約30名が集まり、2泊3日の泊まりこみで鯖江市を見て回り、市長になったつもりで施策を提案している。
 このコンテストで提案されたプランは、実際に実行に移されているものもあり、参加者の学生が社会人になってから地域活性化NPOを立ち上げたりしている。大学がないまちが、学生の若いアイデアや行動力をうまくまちづくりに活かした事例として、各種メディアに取り上げられ、鯖江モデルが各地に派生するなど注目を集めている。主催は鯖江市地域活性化プランコンテスト実行委員会であるが、鯖江市も情報発信や運営サポートなど、積極的に運営に関わっており、竹部さんの思いの実現を後押ししている。

②鯖江IT推進フォーラム"電脳メガネサミット"
 もう一つの興味深い事例は、鯖江IT推進フォーラムである。このフォーラムは、市内のIT企業㈱jig.jpの福野社長が中心となって運営している。前述の工場訪問の後、第二回鯖江IT推進フォーラム"電脳メガネサミット"に参加させてもらった。

 電脳メガネとは、メガネのレンズの部分に必要な文字や映像などの情報を現実の情報と一緒に表示することができるもので、現在グーグルが開発中の「グーグルグラス」や、セイコーエプソンの「MOVERIO」などが有名だ。この電脳メガネの産地としての鯖江市の役割を模索するとともに"メガネとITのまち鯖江"を世界に発信するために開催されたそうだ。

 福野さんは、このフォーラムの中で、「スマフォはもう古い。今からは電脳メガネだ。」というメッセージを出しておられ、メガネのまちの将来を牽引する可能性のある「電脳メガネのまち、鯖江」を早くもアピールし、電脳メガネを核とした新産業を牽引しようとしている。

 鯖江市は、この動きを、市のHP等でPR、鯖江市長も開始から終了までフォーラムに出席し、積極的にコメントされていた。また、市の職員の方々が受付や懇親会など、運営のサポートを献身的にしている姿が印象的であった。

 このような地域ぐるみでのウェアラブル端末開発の動きに加え、近年は、オープンデータ、オープンガバメント、といった最新トレンドにおいても、福野さんら鯖江市民、市内企業の取組が全国をリードしている。

IT推進フォーラム"電脳メガネサミット"の様子
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③鯖江市「市民主役条例」
 こうした市民・市内企業が主導、行政がサポート、という鯖江市の動きを象徴するのが、平成22年4月に策定された「市民主役条例」である。市民主役条例の目的は、市民が主役のまちづくりを進めることであり、条例の理念として「まちづくりの主役は市民である」「市は協働のパートナーとしてまちづくりに参加する市民の気持ちに寄り添い、その意思を尊重するとともに、自主自立を基本とした行政運営を進める」とある。そして、この条例とセットで市民が発案した事業に行政が予算をつけて実現化する「提案型市民主役事業化制度」という施策も実行されている。

 これらの動きは住民、企業、そして市役所内部からも大変高く評価されており、市職員の方曰く「牧野百男市長の人望は大変厚く、市役所職員からもとても慕われている。市長が言うのであれば、という雰囲気がある。」とのことだ。竹部さんによると、鯖江市長・鯖江市はとにかく柔軟で、若者の意見もよく聞いてくれ、まずはやってみようとなる。それだけに失敗も多いらしいが、まずは動いて、挑戦してみて、修正する。そして一回で諦めない、継続しているところが強みなのだそうだ。 
 IT化、グローバル化と言われる現代、世の中の変化の流れは速く、特定の産業集積地や大企業も、いつその影響を受け、破綻するか分からない。鯖江市にも強い危機感があるが、鯖江市は、メガネを中心とした「産業のブランド化」、そして市民の自主性を活かしたまちづくりでこの苦境を乗り越えようとしている。

 結果、前述のように鯖江市地域活性化プランコンテストは、学生がまちづくりのアイデアを提案する場として、全国にその名が広がりつつある。そして、電脳メガネサミットにおいても、福野社長の呼びかけのもと、全国から大手メディア、製造業、ベンチャー関係者等、錚々たるメンバーが集まり、電脳メガネを活用したビジネスのアイデアなどを出し合っている。

 このように変化に敏感で、情報発進力のある人たちが集まる場が生まれ、鯖江モデルのまちづくりとして徐々にブランドができつつあり、全国から視察者が訪れるようになっている。 


●生き残る都市は、「変化する都市」
 昨年、ある先生がダーウィンの「生き残るのは、最も強い生き物でも最も賢い生き物でもなく、変化に適応できた生き物」という言葉を引用しながら、生き残るまちは「変化するまち」であるとおっしゃっていた。鯖江は今まさに、地域産業の既存の集積・強みを生かしながら、新たな産業に進出したり、販路を開拓、付加価値の向上等といった変化をしようとしている。そして、こうした動きを後押しする様々な分野のプロフェッショナルや多様な年代・地域の人材が外から集まり、変化を牽引している。

 そして、行政は「市民が主役、行政はそれに寄り添い実現をサポートする」という考え方で後押ししている。鯖江市のまちづくり・産業再生の動きは、日本各地のまちにも参考になる部分は多いと思う。

 鯖江市の挑戦から、今後も目が離せない。
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