May 2011Archive

●着地側が商品企画・提案を行う「着地型観光」
 近年、地域にあるヒト・モノ・サービス等を組み合わせ、内発的な産業を育成することが求められている。なかでも最近は観光を産業振興の重要な施策の一つに位置づける自治体も多く「着地型観光」というキーワードをよく耳にする。今回は、このテーマについて考えてみたい。
 以前の観光は、発地側の旅行会社が企画・販売する旅行に個人、団体で参加するスタイルが主流であった。しかし、情報化の進展により、インターネットで自ら宿泊先や交通手段を予約し、個人や小グループで旅をする観光客が増加している。また、個人のニーズが多様化する中で、観光客が求める「深さ」を発地側の旅行会社が企画し、準備することが難しくなっている。そのような中で、旅先の着地側の旅館や物販・飲食といった観光事業者に加え、様々な分野の事業者や地域住民が来訪者のもてなしに参画し、地域の資源を活かした地元ならではの商品・サービスを開発提供するスキームが各地で展開されている。
 九州でも、別府市の「ハットウ・オンパク」や、長崎市の「さるく博」を初めとして、様々な企業・団体・自治体が上記のような「着地型観光」の商品づくりに取り組んでいる。

●最近、着地型観光の商品づくりに関わる機会が増えています
 平成22年度は2件の着地型観光の商品開発を行う業務に取り組んだ。一つは熊本県からの委託を受け、社団法人山都町観光協会の新たな取り組みとして着地型の観光商品開発のお手伝い、二つめは国交省の委託による佐賀県佐賀市富士町における地域資源を活用したコミュニティビジネスの実現可能性調査である。
 観光客の多様なニーズを満たす商品を準備するためには、地域内の幅広い人材の連携と、地域資源を編集・加工して商品化、来訪者をもてなすといった一連の業務サービスを地域内で行うことが必要である。そのためには、事業に関わる方々の知恵やアイデアを結集し、理解や共働を得ながら、事業を進めていく必要がある。
 そこで、これら二つの事業においては、ワークショップによる資源の掘り起こしとツアー商品の案づくりを行い、それらの案について旅行会社やまち歩きのアドバイザー等、プロの目による磨き上げを行った。その後、商品毎に設定したターゲット層と合致する方々を実際にお招きして、課題を把握し、改善につなげるというプロセスを踏んだ。山都町においては29本のツアー案を作成し、うち1本を試行、富士町においては26本のツアー案を作成し、11回試行した。手前味噌ではあるが、いずれも来訪者の満足度は9割を超える評価を得た。

●着地型観光にはコーディネーターが必要だが、経営的には厳しい
 着地型観光を持続的に展開していくためには、着地側にてもてなしを行う住民や事業者の連絡調整の他、地域内の着地型旅行商品の提供者と市場(旅行会社、旅行者)をつなぐワンストップ窓口としての機能を担う体制があることが望ましい。こうした事業体のことを、観光庁は「観光地域づくりプラットフォーム」と呼んでいる(下図参照)。また、このプラットフォームの運営については、事務局・コーディネーターが必要であるが、この役割は観光協会や株式会社、NPO、行政等、地域によって様々な主体が担っている。
 このプラットフォーム内における売上げの分配について、ある旅行会社の方からお聞きしたところ、一般的な収入の配分は、地元事業者・町民側が8割、コーディネーターが1割、旅行会社が1割程度だそうだ。ということは、例えば5000円の観光商品におけるコーディネーターの収入は500円であり、これを毎週、年間50回実施したとして、毎回20名が参加した場合の収入は年間50万円にすぎない。コーディネーターが第三種旅行業の登録を行うと、利益率は2割となり収益は増加するが、一方で地域外への情報発信力は失われる。地域内の利害関係を調整し、営業を行うコーディネーターの存在が大変重要である一方で、コーディネート事業が独立採算となることは容易なことではない。九州の多くの着地型観光の取り組みをみても、赤字事業であり、行政の補助金等で補填されているというケースが多々見受けられる。

●コーディネート事業の成功事例は、南信州観光公社
 この着地型観光のコーディネート事業で成功しているのが、長野県飯田市にある㈱南信州観光公社である。出資者は飯田市をはじめとした近隣の14市町村の他、JA、交通事業者、新聞社等、周辺地域の中核企業が名を連ねる。
 昨年9月、同社の高橋社長を富士町にお呼びし、お話を伺った。以下は、その概要である。

 飯田市は人口約10万7000人の地方都市である。1996 年度より中高校生を対象とした修学旅行、総合学習プログラム(体験教育旅行)に取り組んでいる。当時は市の商業観光課が受入に関する事務局業務を行っていたが、農業体験の受入が増えてきたことに伴って2001年に第三セクター形態の「㈱南信州観光公社」を設立した。

●約500軒の農家をコーディネートし、中学生に「農村の普段の暮らしを」を提供
 「人との交流」をキーワードに200種類以上の体験プログラムを準備し、体験プログラムの指導は農家をはじめとする住民が担っている。販売は旅行会社が行い、南信州観光公社が受け入れ農家のコーディネートを行っている。農家民泊において学生に提供される体験メニューは、農作業の他、料理や工芸、加工などの農村生活である。

●200以上の商品ラインナップを持つが、農家生活・農業体験が売上げの8~9割
 南信州観光公社では、これまで200本以上の観光商品を企画し、多様なニーズに応える努力をしているが、個人観光客は売上の1~2割であり、その大部分を占めるのが教育旅行(農業体験)である。教育旅行が年間の売上げの8~9割を占めており、年間約1万人の中学生が農家民泊を体験している。個人観光客向け商品の観光公社としての売上げは、一人あたり200~500円であるのに対して、教育旅行は一人あたり1600円になる。加えて、一度に受け入れる旅行者数も100~200名と多い。
 受け入れ農家数は体験教育旅行の希望者の増加に伴って長野県南部地域一帯に拡大し、現在では市内外で約500軒となっている。
 設立4年目以降単年度黒字を計上し、2009年度の売上は1億5千万円。現在スタッフ7名(うち飯田市からの出向が2名)を雇用している。
 農家の所得は、多い所で年間60万となり、農作業を学生が手伝うことで労力的にも助かっているという声が聞かれている。

 このように受け入れが拡大し、参画農家の所得を向上できた秘訣を、「販売」と「受け入れ」の2つの面からみてみる。

●営業先を絞り、訪問・対面で販売
 販売に関しては、1996年から飯田市が教育旅行の誘致、滞在型グリーン・ツーリズムに積極的に取り組んでいたため、営業先がある程度絞られていた。また、高橋社長ご自身が元旅行会社出身であり、営業のノウハウを良くご存じだったという点が大きい。具体的には、旅行会社の修学旅行担当者がオフィスにいる確率の高い夕方以降に営業に行き、しかもプランの信用度を上げるために飯田市の職員に毎回来てもらっていたそうだ。ホームページに掲載するだけの待ちの営業では誘客は困難であり、営業先は教育機関に直接行くよりも、ある程度教育旅行市場を把握している旅行会社に行く方が効率的だそうだ。こうした商品の対面販売が、信頼度を高めることに繋がっている。(財)日本修学旅行協会調べでは、小中学校の体験学習実施率は1986年に18%であったのが、2006年には61%まで上昇している。高橋社長によると、まだまだ教育機関側のニーズは堅調であり、2年半後まで予約が埋まっている状態だそうだ。

●受け入れ面の整備のためには、行政の協力が不可欠
 受け入れ面については、体験農業に参画する意向のある500軒の農家を束ねているという受け入れ可能なボリュームの大きさが、他地域と比較して同社の競争優位な点である。この背景としては、飯田市が1996年から教育旅行の誘致や、滞在型グリーン・ツーリズムに積極的に取り組んでおり、同社の取り組みを全面的にバックアップしていたことが大きい。私も仕事で各地域を回っていて感じるのだが、いくら新参者(コンサルも含む)が地域のことを考えてモノを言っても、中々信用されず、提案事業に参画してくれるまでには、かなりの労力を要する。しかし、役所の人と一緒に行くと、すぐに信頼を得られる。行政への信頼度は強い。
 農家にとっては参加がしやすいという点も、参画者が増えた要因であろう。同社の商品のコンセプトは「ほんもの体験」であり、農家には、無理せずに普段の暮らしをそのまま体験させることが求められている。高橋社長のお話によると、「無理はせず普段の暮らしを見せる方が、提供者側も楽で、学生も喜ぶ。とにかく無理をしなくて良いから、と言っている。一部の成功者が出れば、追随者が続々と出てくる。」とのことであった。
 さらに、この500軒の農家を28地区に分け、各地区につき年間2回ずつの報告会を開催しているのだが、この報告会を定期的に実施することで、各農家が他の農家の取り組みを知ることができ、自然と農家の受け入れレベルが底上げされるそうだ。

●住民、事業者、行政のビジョンの共有が最大のハードル
 南信州観光公社の取り組みをみると、着地型観光事業を持続可能なものとするためには、地域住民、事業者、行政がタッグを組んで、同じ方向を見据えること、受け入れ体制を構築することが必要である。同時に、南信州観光公社のように、ターゲットに的確にセールスを行うこと、農業体験のように安定的に集客・売上げを見込める定番商品を持つことが望ましい。
 今年お手伝いをした山都町と富士町の2地域では、地域が同じ方向を見据えるという、その最初のステップにかなりの時間を要した。
 どちらの地域も中山間地域に位置し、稲作が主力の農村地域であり、今後農業の自由化の流れでますます環境は厳しくなると予想される。そこで、農業が持つ教育的な価値に着目した観光サービスによる所得の拡大への取り組みを進め、その中でも、一定のボリュームの来訪者が定期的に訪れるという教育旅行を柱の1つにするため、教育機関や企業とこうした地域を繋ぐことができないかと考えている。
 そのためには、外向けの営業も必要であるが、地域内の仲間をどう増やすか、という点が最も重要である。いずれの地域も、試行的に数十人単位の観光客をお呼びし、小さくても成功体験を積むところから始めている段階であり、プラットフォームとそのコーディネーターは存在するが、自治体や住民とのビジョンの共有という点では、まだまだのように感じる。しかし、今後もコーディネーターの着地型観光に対する本気の覚悟と、コーディネーターの活動をバックアップする行動派の行政職員との良いタッグが構築できれば、地域の中に少数の成功者が現れ、徐々に地域の参画者は増加するものと期待している。
 商品開発のお手伝いをした身として、地域への経済的な波及が表れてくれればと思うが、それだけではなく、外部者の目が地域に向けられることで、地元の人が地元の良さに気づき、新たな商品が次々に開発され、それを地域住民や外部のファンが何度も楽しむ。そういった息の長い事業になればと願い、応援をしている。


山都町でのワークショップは4回開催
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富士町でのモニターツアーは、当初想定した30名の募集が1日で完売
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「観光地域づくりプラットフォームの必要性」観光庁HPより
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